氷河は、そして、アベルを封じるための小宇宙を生み始めた。 一時的にせよ自分から瞬を奪った男への憎しみよりは、同情の方が勝っていたかもしれない。 だが、そうするのが、アベル自身にも、この地上に存在する人間たちのためにも、そして、自分と瞬のためにも、最善の方法だと、氷河は思っていた。 むしろ、それは慈悲の一種だと、氷河は思っていたのである。 だが──。 「だ……駄目っ、氷河っ !! 」 瞬が、それでも、アベルを庇う。 「瞬っ!」 「やっぱり駄目! だって、もう、ひどいこと考えてないのに! かわいそうな人なのに! 寂しかっただけなのに、どうしてっ !? 」 「瞬っ !! 」 「だって……どうして……っ !? 」 アベルのために流される瞬の涙を見せられてしまった氷河は、冷静ではいられなかった。 「おまえ、自分がこいつに何をされたのかわかっているのかっ !? 」 瞬がなぜ、そこまでアベルを庇うのか、その理由を考え、一つの可能性に思い至った途端に、氷河は激しい嫉妬にかられた。 その妬心の激しさに反比例して、氷河の小宇宙が逆に弱まる。 「氷河、でも、駄目……」 「封じてやる…! 永遠に!」 まるで呻きのような声を発して、アベルの側から乱暴に瞬を押しのけようとした氷河の腕を、瞬の兄がふいに掴みあげた。 「やめておけ、氷河。嫉妬に狂った男の小宇宙などで封じることのできる相手ではない」 「なんだとっ !? 」 氷河の反駁をあっさり無視し、一輝は、床に仰臥している神を下目使いにじっと見おろした。 「苦しいことかもしれないが……見ていられるだけでも──同じ時を生きていられるだけでも、瞬が幸せでいてくれるならそれだけでも、人は存外幸せでいられるものだぞ。その程度のことも耐えられないというのなら、神以前に男失格だ」 なぜ、瞬の兄らしい男がそんなことを言い出したのかを、アベルは一輝の心を読んで理解した。 潔く消えることが強さなのではなく、瞬を悲しませないために生き続けることこそが真の強さなのだと、彼の心は言っていた。 「今、ここで消えてしまったら、この毛唐がこの先瞬に馬鹿な真似をしでかした時、瞬を慰めてやることもできない」 この男は同類なのだ。 「俺がいい生き甲斐を貴様にくれてやる。消えるのは、それを堪能してからでも遅くはあるまい」 不思議に自信たっぷりの瞬の兄は、そう告げて、少々酷薄な笑みを口許に浮かべた。 |