「――嫌だったんじゃないのか」
「どうして !? 僕、氷河に呼ばれたら、どこにだって行ったでしょ……!」

瞬が、心外とばかりに、その眼差しで俺を責め、訴える。

そうだ。
瞬は、いつも、俺の言うことには忠実で――だが、その理由が俺にはわからなかったんだ。

「僕、氷河のこと考えるだけで身体が熱くなって、どうしようもなくなって……。欲しいんだよ。欲しがられることが欲しいの」

瞬が、肘掛け椅子に掛けている俺の足許ににじり寄ってくる。

「そう言ってくれてたら、俺はあんなにひどいことは――おまえが俺のものじゃないと思うから俺は――」

瞬の手が、俺の膝に触れた。

「だって、ほんとのこと言ったら、氷河、僕のこと……」
「……?」
「その……はしたないって思うかもしれないでしょ。だから……」
「ハシタナイ?」

俺に反問されて、瞬は、俺の方に伸ばしていた手を、自分の手元に引き戻した。

「自分があんなになるなんて、思ってもいなかった……。僕、氷河にしか、あんなふうに欲しがってなんかほしくないんだよ……! でも……」

膝の上に作った小さな拳が、焦れったそうに小さく震えている。

「ごめんなさい……。うまく言えない……」


うまい言葉を見つけられずに顔を伏せてしまった瞬を見て、俺は――思わず吹き出してしまっていた。
つまり、瞬は、俺に淫奔だと思われたくなかったのか?

俺は笑いを止められないままで、瞬の身体を俺の膝の上に抱きあげた。

俺の顔を覗き込んで、瞬が、それでも遠慮がちに尋ねてくる。
「氷河は僕のものだよね?」

「そうか……。おまえが俺のものなんじゃなく、俺がおまえのものだったのか」

「そうだよ。そうでしょ?」
「ああ、その通りだ」

俺が頷くと、瞬はぱっと瞳を輝かせた。
瞬のこんなに明るい表情を、俺はそれまで一度も見たことがなかった。

「じゃあ、もっともっと僕を欲しがって!」
「欲しくて欲しくて我慢できない」

「僕もだよ……!」

瞬の腕が、俺の首にしがみついてくる。
言葉とは裏腹に、その仕草はひどく稚拙だった。



瞬は、その存在が、ひどくアンバランスだ。
心と身体のどちらが先を走っているのか、それすらもわからないほど。
いや、むしろ、欲しい気持ちと欲しがる身体が先走っていて、悟性が追いつけないでいるのかもしれない。



不安定で、だが、俺を欲しがっている。
俺と同じに。





【next】