「そいつが……好きなのか。本当に?」

訊くのが恐くて言えずにいた言葉を、俺は思いきって口にした。

「……うん」
俺に遠慮しているのか、少し沈んだ様子で、だが、幸福を噛み締めるように、瞬が頷く。

その瞳の奥の微笑が、俺の未熟と我儘の代償――なんだ。


シュン ガ オレイガイ ノ ダレカ ヲ アイシテイル


瞬が、いつまでも、俺を待って泣いていてくれるとでも思っていたんだろうか、俺は。
そんなことがあるはずがないのに。

瞬は生きている。
生きていくために、瞬が、俺以外に愛する対象を求めるのは当然のことだ。

「俺の知っている奴か」
「……うん」

「…………」
俺の脳裏で、俺の知っているいろんな奴の顔と姿が浮かんできては瞬の側に寄り添い、そして、消えていった。
俺より瞬の横にいるのが自然な奴なんているはずがない。

誰だ――と訊こうとして、やめた。
その名を知ってしまったら、俺は、今、瞬を抱いている男を憎みかねない。

黙り込んでしまった俺に、瞬が残酷に尋ねてくる。
「誰なのか訊かないの?」
「聞いてどうなるものでもない」


そう。
今更、どうなるものでもない。





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