何とか起きあがれそうだと言う瞬と共に、紫龍はダイニングに向かった。 そこでは――ある意味、修羅場にも似た光景が展開されていた。 「おい、氷河、ほんとに大丈夫なのか? どーしたんだよ、いったい」 天秤宮で氷の棺に閉じ込められていた時のように、小宇宙どころか生気さえ消えかけている氷河を、食べかけのトーストを右手に持った星矢が、(一応)気遣っている。 気遣われた氷河の方は、それこそプライドも何もないという様相だった。 「夕べ、瞬の奴、俺の我儘が過ぎると、えらく怒ってて……」 「おまえ、また、何かやらかしたのか」 「瞬に折檻された……」 “やらかした何か”の説明を省略し、氷河は、その結果だけを星矢に告げた。 「おまえが? 瞬にかよ?」 星矢が、ふいに顔を歪める。 セブンセンシズではなく、第六感が、星矢に危険を伝えてきたようだった。 「あー、嫌な予感を我慢して訊くけど……。どーゆー折檻だ?」 「……寝かせてもらえなかった……」 「…………」 我慢などしなければよかったと、星矢は深い後悔に捉われたのである。 それはそうだろう。 「最初は、俺の方が怒ってたんだ。紫龍なんかに構うなって。それで、いつもよりちょっと乱暴にしたら、瞬の方が怒り出して……」 大きく、氷河は息を吐き出した。 青息吐息を通り過ぎ、まさに気息奄々、虫の息である。 「こっちが満足して寝ようとすると、俺に手を伸ばしてきて、『もう一回』、だ」 「すげー折檻だな」 「後半はほとんど空砲だった。駄目だ、頭がくらくらする。2、3日できない。星矢、ここには、ドリンク剤の類はなかったか」 「聖闘士がドリンク剤かよ」 「小宇宙と違って、あれには限界があるんだ……!」 最後の一滴まで搾り取られたらしい氷河は、爽やかな朝のダイニングルームに、悲鳴にも似た呻き声を響かせた。 |