皮肉なことに、瞬のその気弱としか見えない様子が、王の気に入ったらしい。
王位を実子に奪われることを怖れて我が子を殺し続けてきた王には、王への畏怖を隠し切れないでいる瞬の小心が心地良いものだったのかもしれない。

大人しく臆病で綺麗な子供。
王は、この非力な子供なら、自分が王として生きている限り、王に逆らうことなど思いもよらないだろうと考えたのかもしれなかった。


「噂通りに可愛らしい公爵様だ。大変結構」

弛緩しきった姿勢で玉座に就いている王は、宮廷服というよりは僧服に近い鈍色の長衣をまとっていた。
無論、それは特権階級の人間でなければ手に入れることのできないようなものだったが。

その、まるで生臭坊主のような王が、玉座の上から満悦の体ていで、瞬を見やっている。
彼が瞬の服を剥ぎ取り組み敷く自分を想像して楽しんでいることに気付き、氷河は言葉では表現できない種類の不快感を感じていた。


すぐにでも、瞬をこの場から連れ去りたい。

せめて、この場に王妃が同席していたら、王も多少は妻をはばかるだろうかと考え、すぐに無意味なその期待を自身の頭から振り払う。

夫によって幾人もの我が子の命を奪われた王妃が、人前に顔を出さなくなってから既に十年以上の時が経っていた。
たとえ妻として夫の愛が得られず失望することになっても、女性には母として我が子に希望を託して生きていくという道がある。
その二つまでを期待できない立場に追い込まれた王妃は、もうずっと長いこと、社交の場はもちろん、公の式典行事にも姿を見せなくなっていた。

後宮の女たちも王妃と似たりよったりの心境らしく、本来は女たちが華々しい戦いを繰り広げていていいはずの城の奥は、今はただ沈鬱だけに支配されているという話だった。






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