「私は、国王と公爵に次ぐ、この国の筆頭侯爵家の当主だぞ」 床に倒された男が、まるで挑発するように、自身の地位を口にする。 だが、彼は、自分が氷河ごときに殴られるような身分の者ではないということを誇示するために、そんなことを口にしたのではないらしかった。 氷河にぎろりと睨みつけられた筆頭公爵家の当主は、大仰に肩をすくめてみせた。 「身分を尊重するのは公爵様に対してだけか。騎士殿は、何を怖れて、身分などにこだわりたがっているのかな」 「…………」 知っていながら揶揄する男に返す言葉など、氷河は持ちあわせていなかった。 不遜としか言いようのない氷河の態度と、その氷河に肩を震わせてしがみついている幼い公爵の様子を見やり、ハーデスは声をあげて笑った。 「可愛いねぇ。実に私好みだ、二人とも」 切れた唇から滲む血を手の甲で拭いながら、緩慢な動作で、彼はその場に立ち上がった。 「あんな男の下で喘いでみせるのには、もううんざりしていたところだったんだ。3ヶ月後の選定の日が楽しみだよ。──もちろん、王位は私がいただくが」 そう断言して、ハーデスは、どこか狂気が混じっているような笑い声を、室内に低く響かせた。 |