その部屋は、豪奢なばかりで空虚さの漂う宮殿の中で、ひときわ退廃の香りが強かった。 寝台の横にある肘掛椅子にガウンを羽織っただけの王が腰掛けていて、彼は、氷河の姿を認めると、楽しそうに薄く冷笑した。 寝台の上に、裸体の瞬が、半ば自失したように座り込んでいる。 「瞬様……!」 氷河に名を呼ばれ、視界に氷河の姿を映すと、瞬は、掠れた声で王を責めた。 「い……や、どうして、こんなこと……。こんなの約束が違う……」 「そなたの騎士殿の待遇を良くしてやることは約したが、この様を彼に見せないという約束はした記憶がないぞ」 「いや……やだ、こんな……」 裸身でいることに慣らされてしまったのか、瞬は身体を隠すことになど思い至らない様子で、それでいて氷河の視線に怯え、無慈悲な王だけを苦しげに見上げている。 「瞬様!」 そんな瞬をそれ以上見ていられなくなった氷河が、瞬の側に歩み寄ろうとするより先に、王が掛けていた椅子から立ち上がり、その手を寝台の上の瞬の首に伸ばした。 「ああ、短慮はしない方が身のためだぞ、騎士殿。公爵の細い首など、私は片手でも捻じ折れる」 瞬を盾にとられた氷河が、そこから一歩も動けなくなる。 あからさまに憎悪の視線を王に向ける氷河と、巧みに隠そうとしてはいるが、やはり同じ色を瞳に浮かべているハーデスとを見比べて、王は口許に含むような笑みを刻んだ。 「私も新しい趣向を思いついた。ハーデス、そなた、騎士殿の前で公爵を可愛がってやれ」 本当に、利口でいたい人間は、野心を持つ人間は、恋などすべきではない──王の命令を聞いた時にハーデスが最初に考えたことはそれだった。 「は……。私は、こんな子供の相手は遠慮させていただきます」 「公爵を愛でながらでは、この下僕の悔しがる様をじっくり見物できないからな」 ハーデスの異議など、王の耳には聞こえていないらしい。 見ると、瞬は泣きそうな目をして唇を噛み、今は俯いてしまっていた。 細い肩が震えている。 おそらくは、氷河の視線を感じて。 氷河の前から消えてしまいたいと、今の瞬はただひたすら願っているに違いない。 王に無体な命令を下された男のことなど考えもせずに。 ハーデスの中に、瞬への憎悪が小さく芽吹いた。 |