ここで終わらせるのは無理のようだった。
王は、この残酷な劇を、完璧に終わらせなければ満足しないだろう。
ハーデス自身も、これ以上の抑制が無理だということはわかっていた。


顔を歪め、ハーデスは、上半身だけはだけていた服の飾り帯を解いた。
「わかるだろう。これがどういうことか」
瞬の下腹部に、自身の身体を押し当てる。
「あ……」 
瞬の頬に紅が散った。

「君を見ていたらこうなった。君の中で静めてもいいか」
「何してもいい。氷河は……」

瞬は、半ば恍惚としていた。
唇が、艶めかしく濡れている。

「公爵殿、すまない」
「なんで……? 氷河、どうして謝るの? いいの、早く──」

氷河を誘いながら、しかし、瞬は決して目を開けようとはしない。
そんなことをしたら最後、自分の世界が崩れ去ることを、瞬は知っている──予感している──のだろう。
瞼を閉じて、真実を見ようとしないでさえいれば、自分が幸福でいられることも。

「もう少し、脚を広げて」
少しずつ、だが素直に、瞬が“氷河”の言葉に従う。

それでもためらってる“氷河”に、瞬は戸惑いを覚えたらしかった。
「氷河……?」

視線を感じている。
見られているだけの方が恥ずかしいらしい。
脚を閉じかけた瞬の膝を、ハーデスはその手で押しとどめた。

自分の息が浅ましいほどに荒ぶっているのがわかる。
そして、瞬は“氷河”を待ち焦がれている。

他にどうなるはずもなかった。

ハーデスが瞬の中に押し入ると、瞬は声をあげて──歓喜の声をあげて──氷河を迎え入れた。
「氷河……っ!」

瞬が、自分に覆いかぶさってくる男の背に細い腕をまわす。
突かれるたびに短い悲鳴を繰り返し、背に回された指に力がこもる。

瞬は、完全に、官能のなんたるかを、その甘美と快楽を、意味と魔力とを理解していた。
知ってしまっていた。
「氷河……氷河…氷河…っ!」

自分のものでない名前が瞬の唇から発せられるたび、やるせなさと憤りが募り、ハーデスはますます攻撃的になる。
ハーデスの背に回されていた瞬の手は、ハーデスの動きが激しくなるにつれて、その場にとどまっていられなくなった。
振り落とされた手は、身体の中を駆け巡る快楽の奔流の出口を求めて、シーツを握り締めていた。

ハーデスに揺さぶられるにつれ、瞬の白い喉は徐々にのけぞっていき、幾度も幾度も力を加えられているうちに、扇情的でさえあった瞬の喘ぎ声は、音のない悲鳴に変わっていった。


快楽も極限に近付くと、それは苦痛と紙一重である。
瞬が、その二つがほとんど同じものになる点に達し、一瞬間だけ全身を硬直させる。
瞬の身体が弛緩する直前の痙攣で、ハーデスは自身を解放し──否、解放させられた。

瞬の中に入ってしまうと、その交接を支配するのは瞬の方だった。

自分の力のすべてを瞬に奪いとられたような錯覚を覚えて、ハーデスがどさりと瞬の横に仰向けに倒れ込む。


繋がっていた身体は離れたのに、まるでその余韻までも味わいつくそうとするかのように、瞬はまだ僅かに腰を蠢かしていた。






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