瞬の部屋の扉を閉じると、氷河は、その扉に背中をもたせかけ、大きな息を吐き出した。


――提案したのはハーデスだった。

この数日間のことを、何もなかったことなしよう――と言い出したのは。

それが、――王の言葉を信じるなら――彼が恋しているという瞬への思い遣りから出たものなのか、あるいは、自分自身の恋さえ自嘲しているようなハーデスの悪意から出たものなのかはわからない。
彼は、言葉の上では、それは氷河と瞬をより苦しめるために――氷河を苦しめるのに有効な余興だと言った。


「今度は騎士殿に公爵を抱かせてやろうと思っていたが――」
王は、最初は少々不満気だった。

ハーデスは、身仕舞いを整えると、寝台の上の、小さな胸の上下がなければ死人のそれと見紛うような瞬の白い肌に指を這わせながら、冷笑した。
「公爵のこんな姿を見せられた直後では、理性も何も吹き飛んでいるでしょうから、騎士殿は陛下の申し出に狂喜するだけでしょう。まあ、その後の後悔を見物するのも楽しいでしょうが――いずれそういうことになるのは目に見えているんですから、その前にもう少し苦悩してもらうのも一興」

「しばらくお預けを食らわせて、いつまで我慢が続くか見物というわけか。それもよいな」
瞬の裸体を呆然と見詰めている氷河を意味ありげに見やって、王は頷いた。
「騎士殿、教えておいてやろう。公爵の中は、そこいらの娼婦などよりずっと気が利いている。これほどの道具には滅多に巡り合えないぞ」

そう言って氷河を挑発し、王は、ハーデスの提案を面白がって受け入れた。
王の欲望は、自身の肉体的なそれよりも、人の苦しむ様を見ていることの方に、より比重をおいているらしかった。






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