あの出来事を――数日間を――完全に隠し通すのが無理だということは、わかっていた。
瞬の身体に残っている痕跡はすぐには消し去れない。
周囲が何も起きなかった振りをどれほど装っても、瞬は気付くかもしれなかった。

だが、氷河は、自分があの悪夢の場にいたことだけは、何があっても瞬に知らせずに通すつもりだった。

瞬が、誰を誰の身代わりにして、どんな痴態を演じたか。
それを誰が知っているのか。

瞬に知らせてはならないと思った。


幸い、氷河には、催眠術とまではいかないまでも、人の記憶を霍乱する方法の心得があった。
人の記憶というのは、存外曖昧にできているものである。
当人の心以外の場所から操ることが決して不可能ではないことを、氷河は知っていた。



全てをなかったことにする。
せめて、瞬の意識の上でだけでは。
そうしないと、瞬の心は壊れてしまいかねない。

そう考えて、氷河は、どこまで信用できるかわからない王とハーデスの提案に、諾の返事をしたのだった。

――瞬の心を守るために。






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