決して急ぐことなく――それ故、効果的に、氷河は毎日少しずつ、瞬の記憶を混乱させていった。
その混乱の度合いが深くなるにつれ、逆説的ではあるが、瞬は以前の瞬に戻りつつあった。

瞬は自身の欲望は稀薄らしく、身の内から性欲が起こってきて、彼を苛むということはないようだった。
おそらく、触れられて初めて、瞬のそれは目覚めるようにできているのだろう。


時々、瞬は氷河を不思議そうな目をして見詰める。
氷河は、その視線に触れるたび、息苦しさに支配された。

混乱している瞬の記憶の中で、あの出来事はどんな変貌を遂げているのだろう。 
瞬は、自分が氷河自身に抱かれたのだと思っているのかもしれなかった。






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