「ああ……ん……」

二度目の氷河は、昨夜とは違っていた。
夕べは、目と指とで瞬の存在を確かめようとしているようだった氷河が、今夜は、まるで瞬を味わい尽くそうとするかのように、瞬のありとあらゆるところに舌を這わせてくる。
生温かく湿った感触に、瞬は、指先に犯され続けていた時とは違う困惑と陶酔とを覚えていた。

「ひょ……が……やだ、どうして、そんなとこ……あ……んっ」
言葉では戸惑ってみせながら、瞬は決して、氷河を自分の上から引き離そうとはしなかった。

自分ではない人間に自分の全てを任せてしまうことが、これほど心地良いものだということを、瞬はこれまで知らずにいた。
自分で自分を律することこそが何よりも大切で、そうできるようになることこそが大人になることなのだと、これまで瞬は信じていた。
そうではない時もあり、そうではない人に出会うこともあるのだと、執拗に瞬の内腿に舌を這わせている氷河に喘がされながら、苦しい息の下で、瞬は思い始めていた――思おうとしていた。

氷河が自分の中に押し入ってくる時には、自分が氷河に全てを委ねている時と同じように、氷河もまた彼自身を瞬に委ねてくれているのだ。――と、そう思えば、なるべく抗することなく氷河を受けとめてやりたいという気にもなる。
そして、実際にそうしてやると、氷河は、面白いほどに可愛らしい獣に変わった。
熱にうかされたように瞬の名を呼び、あの獣じみた動きに夢中になって、抜き差しを繰り返す。

瞬は、まともに呼吸すらさせてもらえなかった。
貫かれるたびに感じる痛みは、昨夜以上だった。
このまま際限なく氷河を受けとめ続けていたら、身体を引き裂かれてしまうのではないかという恐れも、いったい氷河は、自分のどれほど奥まで彼自身を打ち込めば気が済むのだろうという疑念も、決して感じなくなったわけではない。

だが、瞬は、瞬の前で人間でないものに変わらずにいられない氷河を、可愛いと思うようになり始めていた。

獣になって瞬を貪ることに気が済むたび、夜に活動する獣のような目を人間のそれに戻し、自分の力では身体を動かすこともできない有り様でいる瞬を、壊れ物を扱うようにそっと抱きしめては、
「瞬、大丈夫か? すまなかった、大丈夫か?」
と気遣わしげに尋ねてくる氷河を、他にどう思うことができるだろう。

瞬をそんなふうにしたのは彼自身だというのに、氷河は、恬然として瞬を気遣ってみせる。
そして、瞬を気遣う彼の言葉は決して嘘ではないはずなのに、少し時間が経つと、またすぐに彼は瞬に食らいつき、瞬の中に彼自身をねじ込んでくるのだ。

多分、氷河はそういう生き物で、そうせずにはいられないようにできているのだろう。
「瞬、すまない。もう一度いいか? 今度は優しくするから」
守ることもできない約束を平気で口にして、次の瞬間には、氷河は、彼自身で瞬を刺し殺そうとする。

「瞬、おまえだけだ。夢の世界でも、現実の世界でも、もう、おまえ以外の誰も欲しくない。おまえだけだ」
瞬の身体を苛みながら、瞬の身体に無理を強いる代償のように、そんな言葉を繰り返す氷河に対して、瞬は実際、『可愛い』という言葉以外の言葉が思いつかなかった。


可愛くて我儘なこの獣のためなら、どんなことでも耐えられる。
そうすることは心地良く、幸福だとも感じる。
瞬は、たった二度の夢の間に、そういう自分にさせられてしまっていた。


いずれにしても、瞬自身は、もはやこの可愛らしい獣なしでは生きていられないものになっていた。





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