夢に夢中になりすぎていた――かもしれない。

「必ず、本物のおまえを、この手で抱く」
そう告げて自分の夢から消えていく氷河を信じて待っていれば、すべては良い方向に向かうに違いない――と、瞬は信じていた。

自分が氷河を受け入れたように、漢の国も胡人たちを受け入れてしまえばいい――。
そう、瞬は思っていたのである。
漢の国も、兄帝も、結局はそうするに違いない。国益を考えれば、それが最善の道なのだから――と。

だからこそ毎夜、氷河の愛撫に身を任せ、氷河を受け入れ愛することに、瞬は夢中になっていた――夢中になれていたのだ。

だが、そんな瞬の楽観を根本から覆してしまったのは、他ならぬ氷河自身だった。

胡軍が長安の都に迫り、瞬の暮らす未央宮の目と鼻の先にまでやってきている――と、後宮の女官たちが騒ぎ始めた頃から、氷河が瞬の夢に姿を現わさなくなってしまったのである。
氷河のいない夢の世界で、不安の思いに苛まれながら一晩を過ごし、そして、瞬は、氷河の腕の中にいる間は忘れていたことを思いだした。

胡の軍が漢の国の奥深くまで侵攻してくることの意味。
互いを認め合っていない国の兵と民が出会った時の軋轢とそれに伴う犠牲。
氷河の身とて、決して安全ではないこと。

そして、それよりも何よりも。
そもそも、氷河が現実の世界に存在する人間なのかどうかさえ、瞬は氷河に確かめたことがなかった。
彼が現実の世界に生きている人間なのだとして、どこに住み、どういう身分で、どういう暮らしをしているのかということさえ――瞬は知らずにいたのである。





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