次の訪問時には、氷河は随分と僕に気を遣ってくれた。
身なりは、最初の訪問の時と同じように紳士然としていたし、ちゃんと挨拶もしてくれて――なにより、『可愛らしい』なんて失言をしなかった。

父さんは、門外漢の息子をディスカッションの場から追い払いたいようだったし、今回は僕も、挨拶を済ませたら席を外すつもりだったんだけど。
けど、氷河の目が、僕にそうさせてくれなかった。
彼のあの視線を感じた途端、金縛りにあったみたいになって、僕はその場から動けなくなった。

父さんは、そんな僕を訝っていた。
席を外すものと思っていたんだろう。
僕だってそうしたい。
でも――。

「瞬。どういう風の吹き回しだ? おまえもついに私の高尚な趣味を解するようになったのか?」
父さんが、茶化すような口調で僕に尋ねてくる。

違う。
僕は席を外したいんだ。
だけど、彼──氷河──の目がそれを許してくれない。

同じ部屋の中に彼がいるというだけで、僕は息が詰まりそうだった。
父さんは、どうして平気でいられるんだろう。
僕は、むしろ、そっちの方が不思議だった。





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