痛かった。
――でも、それが苦しいんじゃない。
氷河の挿入は乱暴だった。
――でも、それも辛くはなかった。

地獄っていうのは、そこから逃れる時が見えないからこそ、地獄なんだ。

氷河が僕の中にいる。
身体を引き裂かれるような痛みに襲われながら、でも、僕は、最初からそれを快楽に変じていた。
氷河の名を、ほとんど叫ぶように繰り返し呼び、そうすることで、僕を支配している快楽をより強めることも、僕にはできた。

僕の身体の中で起こっていることに気付いているのかいないのか、氷河は氷河の快楽を追い続けている。
音がするって、ほんとなんだ――と思う間もなく、氷河のそれが簡単に終わりそうにないことを、僕は悟った。

自分でも、自分のそこが氷河に絡みつき、圧迫しているのがわかる。
なのに氷河はそれを無視して――何だろう? 氷河の目的は、どれだけ僕の奥深くまで入り込めるのかを確かめることみたいだった。
そんなふうに、繰り返し、僕を突き上げてくる。
力任せに貫いたり、じわじわと捻じ込んだり、いろんなやり方で、それが延々と続いた。

氷河にそんなふうにされている下で、僕は必死に息をしようとしていた。
でないと、氷河がくれる快楽に夢中になって、呼吸することを忘れてしまいそうだった。
喘ぐだけでは足りなくなって、泣くだけでは逃れられないことを知って、僕は、女の人が口にするような、情けない懇願を声にし始めていた。

『やめて』だの、『いや』だの、『助けて』だの、果ては、『ごめんなさい』、『許して』――。
だって、他に何て言えばいいのかわからない。
氷河はいつまでも終わらない。

僕の身体はばらばらになってしまいそうで、なのに、それが狂気のように心地良かった。
歓喜が過ぎると、もうどうなってもいいとか、このまま死んでしまった方が楽だとか思うのは、事実なんだ。
僕は気が狂ったみたいに、氷河に傷付けられることを悦んでいた。

もう、これは、僕の知ってる僕じゃない。
僕を貫き続ける氷河の下で、僕は、普段の僕なら決してしないことだけをしていた。

「やめて」
と、懇願するのも僕じゃない。

「本当にやめてほしいのか」
そう問われて、
「やめないで」
と叫んでしまうのも僕じゃない。

本当に、気が狂いそうだった。
実際、狂っていたのかもしれない。

気持ちよくて気持ちよくて、痛くて痛くて、氷河と交わっていることを終えて、もとの冷静な自分になんか戻りたくなかった。
氷河と離れるのが嫌だった。
氷河にしがみついて、僕は、自分から氷河に腰を押しつけていった。





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