気が遠くなりかけた、ある一瞬に――そのたびに、新しい痛みと快感に襲われて、気を失うことは無理だったけど――僕は、以前、父さんに聞いた古い物語を思い出していた。

『日本霊異記』――だったと思う。
見知らぬ男と契って、快楽果てた後に、自分を抱いた男に頭と指だけ残して食われてしまった娘の話。
つまり、彼女を抱いた男は鬼だった――という話。

鬼というのは、きっと例えに過ぎないんだろうけど、僕は、そう感じた娘の気持ちがわかるような気がした。
氷河を自分の中にくわえ込んでいるのは僕の方なのに、僕は、内側から氷河に食われているような錯覚に捕らわれていた。
氷河に貫かれるたび、その内に氷河の精が染み込むたび、僕は氷河に同化していく。
僕の身体の内側が溶けて、僕は氷河の一部になっていく――。

「ああああ……っ!」
綺麗な鬼に、力のみなぎった衝撃を加えられるたび、僕の身体は軋んで、悲鳴と喘ぎを洩らす。
その声も、最後には出なくなった。
僕は、身体のほとんどを氷河に食い尽くされて、僕と言えるようなものは、もう何も残っていない。
それでも、氷河は僕の中に入ってくる。

発狂しそうなほどの快楽を伴った拷問を受けているみたいだった。
僕は被虐趣味はないつもりだけど、それが快いのは事実で――。

こうまで激しく自分の中を侵蝕され続けていると、自分はただ氷河を受けとめるだけの肉の塊りのようにも思えてくる。
めぬめぬと淫らに蠢いて、僕を食い尽くそうとしている氷河に逆に食いつき、圧迫し、締めつけるだけの。
それは、僕の意思を無視して勝手に活動し、そして氷河に歓喜していた。





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