快楽そのものになり果てて、言葉もなく喘ぐことしかできなくなって、桃源郷に放り込まれた気分でいた僕を、現実の世界に引き戻したのは、氷河の声だった。

――何て言ったんだろう。
僕の耳には、『キアラ』と聞こえた。

多分――女の人の名前。

僕は、その時、初めて気付いた。
氷河が、僕を誰かの身代わりとして求め、抱き、見ていたことに。
だから、氷河は最初から、あんな目で僕を見詰めていたんだということに。

おそらく――僕は、誰かに似ているんだ。

ふいに、僕の心と身体とが僕の許に戻ってくる。
認めたくない事実を認め、その事実に凍りつくために。

でも、心と身体を取り戻した途端に、僕は、自分の身体から全ての力が失われていることに気付いた。
そして、まるで暗くて深い穴の中に引きずり込まれていくように、僕は意識を失った。





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