「――生きたまま、とは……」

僕が意識を取り戻した時、氷河はもう身仕舞いを整えていた。
『生きたまま』でいるのが、僕のことなのか、氷河のことなのか、そもそも氷河が何を言っているのかが、僕にはわからなかった。
わかろうとも思わなかった。

わかっていたのは、僕が、僕じゃない誰かのために、浅ましい真似をさせられたってことだけ。

「帰る」
ベッドに横たわったまま、虚空に向かって僕がそう呟くと、氷河は、抑揚のない声音で、
「送っていく」
と言った。

そんなことより他に言うべきことがあるだろうと、僕は苛立ち、そして、泣きたい気分になった。
意地でも泣くまいとしてこらえたけど、でも、こんなことってあるだろうか。

「歩いて帰れる」
「無理はしない方がいい」
僕が聞きたいのは、そんな言葉じゃない。
僕は意地になって、独力で起き上がろうとした。

でも、実のところ、僕はベッドから立ちあがるのがやっとで、普通に歩くこともできなかった。
服を着るために、僕は氷河の手を借りた。

口をつぐんだまま、夜景も見ずに、氷河の手を借りて、地下の駐車場に向かう。
本当に、何か言ってほしい。
嘘でもいいから、何か優しい言葉を。

でも、僕は、涙をこらえるのに必死で、そして、自分から氷河にそれを求めることはできなかった。





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