その時、僕は、氷河の荒唐無稽な話が真実なのかどうかということより、やっぱり僕はキアラの身代わりだったんだということにショックを受けていた。 身代わり。 氷河の愛した、氷河が愛してるキアラの身代わり。 悲しくて悔しくて──どうしようもなかった。 でも、思ったんだ。 氷河が僕をキアラの身代わりにしなければならなかったのは、キアラが既に死んでいるからだ。 今、この瞬間、世界のどこにも、氷河のキアラは存在しないんだ……って。 キアラはいない。 キアラは身体を持っていない。 そして、僕は、キアラの持っていないものを持っている。 だから。 だから、僕がキアラから氷河を奪ってしまえば、僕はキアラの身代わりじゃなくなるんだ――と。 だって、自分ではどうしようもない何かに惹かれて、氷河に抱かれて、いつのまにかこんなに氷河を好きになってしまってる自分に気付いて、なのに氷河は僕とのことを“死ぬこと”なんかで清算しようとした。 そんな扱いをされてしまった僕に、他にどうすることができるっていうの。 氷河を自分のものにしなければ、僕は生きていられない。 そうしなければ、僕には生きてる価値がないんだ。 |