その夜からだった。
僕が、奇妙な夢を見るようになったのは。

僕と同じ顔をした少年が、夢の中で僕に言う。
「ちょうだい」

前髪立ちで、薄い水色の小袖に袖無羽織を重ねている。
女の子みたいに優しげな面差しで、なんだか気弱そうな目をしていた。 
「その身体、僕にちょうだい」

14、15、16──いったい何歳くらいなんだろう?
僕より年下みたいにも見えるし、僕よりずっと年上なようにも見える。
顔は子供みたいなのに、瞳は深みをたたえてた。
その瞳が、僕を切なげに見詰めている。

これが氷河のキアラだと、僕にはすぐにわかった。
本当に、僕にそっくりだった。
僕と違うのは、キアラの方が僕よりずっと善良そうで、綺麗な目をしてるってことくらい。

でも、それはただの夢。
『身体を持っている』っていう氷河の弱みにつけこんで、キアラから氷河を奪った僕の罪悪感が紡ぎ出す、ただの夢だ。

――氷河の横で目覚めるたびに、僕は自分にそう言い聞かせた。

だけど、その夢は執拗に続いて――。
毎日、氷河の横で眠るたび、キアラが僕に訴えてくる。
「その身体を僕にちょうだい」
──と。

夢の中で、僕はずっと、キアラの声なんか聞こえてない振りをしていた。
その姿が見えていない振りを続けた。
夢の中のキアラの幻影なんて、僕はちっとも恐くなかった。

氷河を失うことに比べたら、ほんの少しも。





【next】