他に行く場所もなく、アテナの落雷を覚悟して、氷河と瞬は、沙織が彼等を召集したホテルへと向かった。
早朝のホテルの玄関から、何やら大荷物を抱えたこそ泥が出てくるところに遭遇する。

「早くしろ。沙織さんに見付かるとうるさい」
それは、右と左の手に二つのクロスボックスを持った天馬座の聖闘士と龍座の聖闘士の姿だった。

「星矢! 紫龍!」
瞬が、彼の肩を抱いていた氷河の手をすり抜けて、仲間たちの許に駆け寄る。
こればかりは、氷河にも引き止めることはできなかった。

「瞬! 生きてたのかーっっ!」
仲間との再会に狂喜した星矢が、手にしていたものを放り投げて、瞬に飛びついてくる。
おかけで紫龍は、彼が手にしていたドラゴンのクロスボックスとキグナスのクロスボックスを放棄し、星矢が放り投げたペガサスのクロスボックスとアンドロメダのクロスボックスを、慌てて受けとめる羽目になった。

「なんだよ、生きてるなら生きてるって……! せっかく、沙織さんの目を盗んで、あんなモン運んできてやったのに!」
紫龍の手にあるクロスボックスに一瞬視線を走らせてから、星矢は嬉しそうに不満をぶちあげてきた。

「心配かけてごめんね。ありがとう、星矢。紫龍も」
無事の再会に盛りあがる星矢と瞬の背後で穏やかに笑ってる紫龍の顔にも、安堵の色が浮かぶ。

数日振りに出会った仲間たちを見やって、氷河は苦笑した。
「しかし、どいつもこいつもアテナの命令無視か。みんな、アテナの聖闘士失格だな」

「だーってよぉー」
星矢はその評価には不満らしかった。
「沙織さんって、時々すごく馬鹿なんだよな。俺たちの住む世界をさ、俺たちが守んないで、神サマに任せっきりにしてどーすんだよ。理屈に合わないこと命じる沙織さんの方がおかしいんだよ」

「全くだ」
星矢の意見に同意して、紫龍が頷く。

揃いも揃ってアテナの聖闘士失格の青銅聖闘士。
だが、そこが、アテナの聖闘士の最もアテナの聖闘士らしいところなのかもしれなかった。





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