ハーデスは、この残酷な遊びに夢中だった。
人類の粛清や人間の住む地上を壊滅させる計画など忘れてしまったかのように、瞬の中で氷河に愛され、氷河になって瞬を愛撫することに、彼は夢中になっていた。

不滅の命を有する神にしてみれば、この遊戯に割いている時間など、視線を一瞬間脇に逸らした程度の寄り道でしかないのだろう。
しかし、人間である氷河と瞬には――他の人間たちにとっても、おそらく――それは十分すぎるほどに長い時間だった。

神であるハーデスには一瞬、だが、人間である氷河と瞬には永遠にも感じられる時間の延長線上のある一点で、ハーデスは瞬の姿で二人に告げた。
「そなたたちの、他の者は不要、他の者では嫌だという気持ちはわからぬでもないな。これは、神との合一のように永遠のものではないが、刹那的な歓喜としては、これ以上ないほどに激しいものだ。自分にはこの者しかいないという、そなたたちの思い込みが、その歓喜をより大きなものにしている」

その頃には、ハーデスに支配されている瞬を貫くことに氷河は躊躇せず、瞬もまた、ハーデスに支配されている氷河を受け入れることをためらわなくなっていた。

「人間というものは面白い。しかし、そなたたちのこれは、アテナが声高に訴えている愛とやらではなく――いや、愛の中の恋と呼ばれるものなのだろう? だが、いったい、その恋の対象は何だ。心、身体、意思、思想、何がそれほどそなたたちを惹きつけ合わせるのだ」

ハーデスの問いかけに答えることはせず、氷河は、ハーデスを内包した瞬の身体を開いて、彼自身をその中に突き立てた。
ハーデスの言葉を無視して、瞬の身体と語らい合うように。
そして、氷河との合一に歓喜の悲鳴をあげるのも瞬の身体だった。
痛々しい裂傷が 氷河を内に閉じ込めたままで その傷口を閉じようとするような感覚が、氷河を低く呻かせ、氷河をそんなふうにしてしまえる我が身を誇るかのように、瞬の身体は身悶え喘ぎ続ける。

瞬の中で瞬の歓喜を横取りしているらしいハーデスは、その時ばかりは傲慢な口もきかなくなった――きけずにいた。
ハーデスは、瞬がそうするように喘ぎ、瞬がそうするように心臓の鼓動を早め、瞬がそうするように涙を流すことさえした。
その様は、ハーデスこそが瞬の五感に支配されているようにしか見えなかった。
実際、そうだったのだろう。

だが、それが済むと、ハーデスは、この身体を支配しているのは自分の方だと言わんばかりに高慢な態度を――瞬の姿で示した。
「人間が後生大事に奉っている愛や恋など、このように脆く儚いもの、根拠のないものだ。綺麗事を言っておきながら、結局、そなたたちは余に動物としての本能を弄ばれているにすぎない」



『──違う』
ハーデスの嘲笑が瞬の意思によって遮られたのは、実は、瞬と氷河がハーデスの専横を許し始めてからさほど長い時間を経てからのことではなかった。
眠りを必要としない死者の国で、氷河と瞬にはそれがひどく長い時間に感じられていたのだけれども。





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