(ど……どうして !? )
瞬は、我が身を守るためというより、氷河のために、自身の小宇宙を使った。
この氷河は、いつもの氷河ではない。
このまま このおぞましい行為が為されてしまったら、傷付くのは本来の自分に戻った時の氷河だと、そう信じて。
だというのに――まるで瞬の考えは間違っていると言い張るように、世界は瞬に反逆した。
世界が、血の色で濁った目をした男の意に従っている――。

(い……いったい、何が起こってるの…… !? )
瞬が ありえない現実に身を震わせた瞬間だった。
氷河が瞬の中に押し入ってきたのは。
彼は、瞬の身体に愛撫の真似事すらしなかった。
その行為に邪魔なものを取り除くなり、瞬に男を受け入れる態勢をとらせ、僅かな躊躇も見せずに、彼はそれを瞬の内に打ち込んできた。
痛みを感じる感覚さえ どこかに置き忘れたように、瞬は ただその衝撃に耐えたのである。
身体がきしむような痛みがそこにあることはわかったのだが、それが苛烈すぎて、瞬はそれを自覚することができなかったのだ。
だが、瞬の身を気遣う様子も見せずに氷河が律動を始めると、まもなく瞬は、自分の体内に入り込んだものが刃物のような凶器だということを思い知ることになった。

(なに……これは……? 痛い……熱い……何が起きてるの、嘘だ、これは……嘘!) 
混乱が、瞬の五感を麻痺させていた。
瞬は、自分は氷河に好かれていると信じていた。
仲間としても、仲間でない何かとしても、自分は氷河に好かれていると、瞬は信じていたのである。
それが自惚れでないと思うに足る根拠を、瞬はこれまでに幾度も氷河に示してもらっていた。
だが、好きな相手にこんなことをする人間がいるだろうか。
本来ならば愛情の発露として行なわれるはずの行為を、こんなにも暴力的にされる理由が、瞬にはただ一つしか思いつかなかった。
自分は本当は氷河に好かれてなどいなかった、むしろ憎まれていたのだ――という理由しか。

幾度も繰り返し氷河に身体を切り刻まれながら、瞬はそう思うしかなく、その事実を認めた途端に瞬に襲いかかってきたものは、途方もない絶望だった。
瞬は、認めざるを得ないその事実に絶望して悲鳴をあげた。
その悲鳴に満足したように、それまで瞬の身体を切り刻むことに夢中になっていた氷河が、瞬の身体の奥にその暴力の終わりを告げるものを放つ。

氷河が自ら動くことをやめると、瞬は、自分の身の内にある肉までが、その主の意に逆らって、氷河の言いなりになっていたことを知ったのである。
すがりつき絡みつく瞬の肉の感触を楽しむように、氷河はしばらく瞬の中にとどまっていた。
が、やがて彼はその身を瞬から引いた。
途端に、瞬の内腿を伝って流れ落ちるものがある。
それが何なのかを知って、瞬は再び悲鳴をあげた。
それは既に、声にもならなかったが。






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