「な……なんで、そんなことしたんだよ! おまえ、馬鹿か !? 」
「慎重に手順を踏めば、いつかは合意の上でその行為に及べていただろうに、なぜまたそんな馬鹿なことをしでかしたんだ!」
白鳥座の聖闘士は馬鹿であるということに関して、星矢と紫龍の見解は一致していた。
氷河は、彼等の見解に異を唱える気にはならなかった。
むしろ そうであってくれたなら、事態とその解決はより簡明であったろうと思った。
馬鹿であることが問題なのであれば、利口になることで、事は解決するのだ。

が、残念ながら、氷河はそこまで自分を馬鹿な男だとは思っていなかったのである。
他のことならともかく瞬に関することでは、自分は臆病と言ってもいいほどに慎重で、考えすぎるほどに考えを巡らせていると、氷河は自認していたのだ。
平生の自分なら、決して昨夜のようなことはしない。
浅ましい肉欲ごときが、瞬の涙に勝てるはずがないのだ。
「わからん。魔がさしたとしか――」
氷河としては、そう言うしかなかった。
言って、彼は右の手で己れの顔を覆った。

「犯罪者がよく口にするセリフだな。責任逃れするつもりかよ!」
「そんなつもりはない。責任をとれというのなら、いくらでもとる。だが……どうすればいいんだ」
「どうすれば……って……。結婚は無理だから、慰謝料をはずむとか」
「冗談を聞くつもりはない」
星矢の冗談は笑えない。
しかし、仲間のふざけた言葉を責めることも、今の氷河にはできなかった。

「謝ることだ。それしかできることはない」
星矢のそれよりはまともな、そして ありふれた、だが最も誠意ある対応方法が、龍座の聖闘士の口から提示される。
実際、氷河にできることはそれしかなかった。
だが、あまりに悲惨な瞬の様子を見せられた直後だけに、氷河は、自分の心からの謝罪すら、瞬を傷付けるだけなのではないかと思わずにはいられなかったのである。






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