雨が降っていた。 梅雨の時期の雨とも思えないほどに強い雨。 どしゃぶりの、真夏の夕立がいつまでも終わらないでいるような雨。 滝のような雨は、大地に染み込んだ多くの死した罪人たちの血を洗い流しても、生きる者の罪を洗い流すことは無いだろう。 5感全てが鋭敏な為、耳をふさいでも、窓を叩きつける雨は薄暗い部屋の中の大気を震わせ、肉体へと染み込む。 雨音はこの手にかけてきた敵の憎悪の悲鳴に聞こえ、激しく俺を責めたてる。 渇き荒んだ心と身体にあるのは、狂った意識。 次再び起こるであろう闘いに向けて、瞬の敵を倒し続けるためにも、体力回復には、やはり睡眠と食事は不可欠。 しかし身体は相変わらず、この2大欲求を拒絶する。 感覚は研ぎ澄まされていても、挙動や思考が侭ならない。 それでも、それらを一気に解消しようと、昨晩、厨房の簡易ワインセラーから瓶を1,2本かすめてきた。 アルコールの力で少しでも感覚を鈍らせようと、コルクを抜き、そのまま瓶中の液体を喉の奥に流し込む……。 「!!」 胃を激痛が襲う。 強烈な吐き気に自ら意思を無視して身悶え、持ち手から瓶が滑り落ちる。 瓶は破砕音と中の液体を部屋にぶちまける。 精神はそれでも吐かせまいと、口を抑え、ただ肉体の意思に抵抗する。 「どうした?! 氷河!!」 突然部屋の扉が勢いよく開かれる。 聞こえてくる声の主は、瞬ではない。 慌てながら近づいてくる人影は長身長髪の男。 ――おそらく紫龍だろう―― 沸き起こる苦痛で、考えも侭ならない。 彼は、俺の口元の手を退かし、指を入れ開口させてきた。 抵抗は(そのような思考も)出来なかった。 |