―見せたのはそっちのほうじゃないかっ!― そう思った瞬ではあったがじりじりと、しかし確実に近づきつつある氷河の迫力と前にして言うこともあたはず、逃げ出そうにもさっきのショックで腰が抜けて立ちあがれなかった。 なんとか体を引きずって移動はできたがすぐに壁に追い込まれてしまった。 危機一髪、もしくは絶体絶命という言葉を冠するにふさわしい状態。 一方で氷河は瞬の怯え方に少し後悔し、落ち着かせようと、そして説明は難しいが彼に触れてみたいという気持ちから手を差し出したその時、 「かみさまほとけさま、にいさーん!」 目に涙を溜めた瞬に言うことのできた唯一の言葉。 それに対しての氷河。 「……。」 彼は、その言葉のどこが気に入らなかったのか、否、それはすべて。 そして特に後半部分。 数秒間空中で静止していた手が瞬の優美な輪を描く顎を捕らえ氷河のほうを向けさせられる。氷河は瞬の目を覗きこみながら、努めて機械的に言うべきことを言った。 「秘密を知られたからには仕方ない。」 もう片方の手が瞬の首にかかった。 ―僕は口封じに殺されてしまうんだ。― 瞬は目を堅く閉じてその時を覚悟した。しかしいつまでたっても首は絞められず、代わりに口がふさがれた。 予想外のことに瞬が驚いて目を開くと、眼前には金色があって、温かさと感触から口をふさいでいるものは氷河自身の唇であることが判った。 |