幾度も繰り返された、これは夢なのだとわかっていた。
 夢。
 眠りにつこうとするその瞬間に襲い来る幻像。
 光のささぬ世界。
 「あのひと」と、そして煌めく刃を持った、姿さえも見えぬ影。
 暗黒の空間に隙なく満ち満ちた殺意は彼に向けられたもの。
 闇に金の髪を翻し逃れようとする彼を、しかしその「凶意」は過たず追い詰める。
 あのひとのそばに行きたいのに。
 あのひとをまもりたいのにその距離は通り抜けられぬガラスの向こう側のように遠く。
 彼の姿が見えるけれど同じ世界にはいない。
 つめたく濃厚な空気が渦すら巻くかと思われる彼方側と違い、此方は真空にも似た、まるっきりの空。
(氷河…!)
 どれほどに叫ぼうともその声が空気を震わすことはかなわず、ただ自らの中に反響し破鐘のように響くばかり。
 発された感情の渦が壁を破り外側に届くことはなく。胸の裡の奔流が体中を駆けめぐり、負荷が加わる精神が血を沸騰させる。
(やめて…お願い)

 ───「あのひと」が奪われる。






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