氷河が欲しい。
氷河にいつも笑っていて欲しい。
その笑顔が僕だけに向けられるものでなくてもいいから。

これは、欲だね。


氷河が欲しい。
氷河の瞳を曇らせる、どんなことも起こらないで欲しい。
僅かな悲しみも知らない氷河の腕に抱かれ、その激情のすべてを僕の内に解き放たせる。
その瞬間に、氷河が世界で一番幸福な人間でいてくれたなら、僕はどれほど幸せになれるだろう。

これも欲なの。



僕の中で、
氷河の幸福だけが、どうしてこんなに他の人の幸福よりも優先されるんだろう。
こんなことは考えちゃいけないのに。

(僕は女神の聖闘士なんだから)


それでも、この欲は止められない。



僕はただ、僕も幸せになりたいだけ。
そのために、氷河の幸福が必要なだけ。
それだけなのに。


それだけのことなのに、きっと、この欲は、氷河には決して知られちゃいけないことなんだ。
僕の欲を知ったら、氷河は僕を軽蔑するだろう。
僕の堕落を哀しむに違いない。


この欲を氷河に否定される時は、
僕自身の存在もまた、否定される時だというのに。







【next】