『この男は面白いな』 “彼”の支配がどういうものなのかが、瞬にはわからなかった。 『そなたのために、何かをしたがっている。なのに、そなたが何も求めてくれないので苛立っている。そなた、この男に『死ね』とでも言ってみろ。この男は、そなたがそれを真実望んでいるのなら、喜んで死んでみせるだろう』 彼は、正直になれない者の代弁者として、そこに存在するように、瞬には思われた。 『あるいは、『触れるな』と──。それがそなたの望みなら、この男は、自分がどれほど苦しくても、一生そなたに触れずにいることだろう』 ただ、正直な── 『そなたは、欲しいものを欲しいと言えずにいた。だから、私は手助けしてやった。だが、この男の望みは、私にも叶えてやることはできそうにない。この男の望みは──そうだな、求められることだ。そして、求められたことを叶えてやること』 ──欲の代弁者。 『そなたが求めなければ始まらん』 氷河の唇から零れてくる“彼”の声音は、どこか寂しげだった。 まるで、それが、氷河自身の心の吐露であるかのように。 |