だから、瞬は、自分の身体から離れようとする氷河を引きとめ、そして、抱きしめた。

氷河を装った“彼”が──否、“彼”を装った氷河が──瞳に、微かな戸惑いの色を浮かべる。
『なぜ、私と知って抱きしめる』

「あなた、氷河でしょう? そして、僕だね」
確信と祈念のないまぜになった思いが、瞬の口調を確言めいたものにしていた。


あの時、命の火の消えかけている氷河を前にして、瞬は、彼を救うために自分の命を懸けることには少しのためらいも感じていなかった。
ただ、そうすれば、氷河は、本当にずっと自分を忘れずにいてくれるのだろうかという不安だけを、打ち消すことができずにいた。

だから──自身の力を使うことを後押ししてくれる誰かが、瞬には必要だったのである。そして、瞬は“彼”を作った。


それが、瞬自身とは別のものとして瞬の心から分化し、望むものが符合しすぎていた氷河の中の“彼”と共鳴し合い、一つのものになってしまった。
二人の求めるものが近すぎたせいで、本来ならそれぞれの中に密かに育まれているはずの“彼等”は、一つの“彼”になってしまったのだ。



人は、自分の弱さや醜さや理不尽な感情を、誰かのせいにしたがる。
魔のせいにしたがる。
それは、どこまでいっても、自分自身でしかないというのに。

自分自身として受け入れ認めてしまえば、“彼”は、神でも魔でもなくなるのだ。





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