この世で最も美しい花の贈り物を、シュンは喜んでくれるはずでした。 けれど、シュンは、怪我だらけのヒョウガの姿を見ると、ヒョウガが差し出した水晶の花には目もくれず、逆に、泣きそうな顔になってしまったのです。 「おまえのために、手に入れたんだ」 それを、禁じられた神の庭のものとは知らせずに、ヒョウガは、傷だらけの手で、シュンに水晶の花を手渡しました。 「ヒョウガ、ひどい怪我」 「おまえが喜んでくれると思ったんだ」 「…………」 シュンは、見るからに高価そうなその贈り物に戸惑いました。 しばらくの間、その花を受け取ったものかどうか迷った後で、シュンは、ヒョウガのために、その贈り物を喜ぶことに決めたのです。 「ありがとう、ヒョウガ。でも、僕は、ヒョウガにあげられるものは何もなくて――」 善良な人間の例に洩れず、シュンの生活は貧しいものでした。 『返礼に、おまえの愛を』と、ヒョウガはシュンに求めるつもりでした。 でも、緑色の水晶よりも済んだシュンの瞳に見詰められると、ヒョウガは何も言えなくなってしまったのです。 「ヒョウガ」 黙り込んでしまったヒョウガの前で、シュンはゆっくりと目を閉じました。 その仕草が何を意味するのかわかった時のヒョウガの喜び! それは、恋をしたことのない人間には決してわからない喜びでしょう。 ヒョウガは、彼らしくもなく身体を震わせながら、春の薄紅色の薔薇の花びらより優しいシュンの唇に、自分の唇を重ねていったのです。 そして、ヒョウガは、初夏の若木のように生き生きとしたシュンの細い身体を、その胸に抱きしめようとしました。 けれど――。 ヒョウガがシュンを抱きしめようとしたその時、ヒョウガが伸ばした手の先で、ふいにシュンの身体がぼやけ始めたのです。 「シュン !? 」 その魔法のような出来事に目をみはっているヒョウガの前から、やがてシュンの姿はすっかり消え去ってしまいました。 つましいシュンの家の小さな部屋に一人残されたヒョウガの上に、不思議な声が降りてきます。 「私の庭から、大切な私の花を盗んでいった罪びとよ。代わりに、この子を貰っていくぞ」 ヒョウガがシュンに贈った水晶の花は、まるで脆いガラスのように砕けて、床に散らばっていました。 |