ヒョウガは再び、水晶の花の庭のある神の山に向かいました。

神の庭の水晶の花の中に、シュンは立っていました。
いいえ、水晶の中に閉じ込められて、花の代わりに飾られていました。
ちらちらと夜空から降ってくる白い雪が、空中できらめき、シュンが閉じ込められた水晶の周りで撥ねています。

「シュン……!」
水晶の中で瞬きすらできずにいるシュンの瞳が、悲しげにヒョウガを見詰めていました。

「シュンを返せ! 元に戻せ……!」
ヒョウガは、姿の見えない神に向かって叫びました。
こんなことは神にも許されないことだと思いました。
罪を犯したのはシュンではないのです。

「……盗人が。私はおまえと同じことをしただけだ」
どこからともなく、また、あの声が、夜だというのに仄明るい水晶の庭に響き渡ります。

「あの花は返す」
「あの花は砕けてしまった。私のいちばんの気に入りの花だったのに」

神の庭には、何千何万という数の水晶の花が咲いています。
その中のたった一輪。
たった一輪を盗んだことがそれほどの罪なのかと、ヒョウガは神に問いかけようとしました。
けれど、ヒョウガはそうすることをやめたのです。

この世界には、何千何万という数の人間が生きています。
その中のたったひとり。
たったひとり、シュンだけが、ヒョウガにとって特別な存在でした。

――つまりは、そういうことなのです。


ヒョウガが口にしようとしてやめた言葉は、しかし、神には届いていたようでした。
「……よかろう。おまえが私に、私のあの花を返してくれたなら、この子をおまえに返してやろう」
ほんの少しだけ、神の声からは厳しさが消えていました。

「この庭の花は、世界中の人間の善良な心の結晶だ。おまえが盗んでいったあの花は、この子がこれまでに行なってきた善行の結晶だった。これから、どれほど大きく美しい花に育つのかと、私は楽しみにしていたのだが――」
姿がなく、声しか聞こえないからこそ、神の無念がヒョウガには感じとれました。

「この花より大きい花を作って私に返しなさい。おまえの善き行ないで。今、この庭に、おまえの花はない。1年のうちに――来年の降誕祭の夜までに、おまえが、この子が十数年間かけて咲かせたあの花より大きな花を私の庭に咲かせることができたなら、この子をおまえに返してやろう」


1年後の降誕祭の夜までに――。

神の示した条件は、たやすいことではありませんでした。
それは、シュンが生きてきた十数年を、この1年で生きろと、ヒョウガに命じるものでした。


水晶に閉じ込められたシュンが、無言でヒョウガを見詰めています。

『ヒョウガ。僕、ヒョウガを信じてるから――』

ヒョウガには、シュンの声が聞こえたような気がしました。





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