むかしむかしのことです。 世界のずっと北の果てに、エレホン国という強大な国がありました。 国土の大半はツンドラ地帯でしたが、その地下には石油や宝石等の豊かな地下資源があって、国は大層栄えておりました。 その国の王様は氷河という名で、大層美しい王様でしたが、それ以上に彼は、傲慢なことで近隣諸国に知られていました。 でもまあ、権力者というものは、えてしてそんなものですから、特筆すべきことでもないですけどもね。 ある日のことです。 氷河国王の国の都に、実に怪しい二人連れがやってきました。 見るからに怪しいその二人連れは、デスマスクとアフロディーテと名乗り、 「我々は、機織りの名人だ。我々が織った布で作った洋服は不思議な力を持っていて、邪悪な者には見えないのだ」 と、実に古典的な大ボラをかましてくれたのです。 二人のその馬鹿げた大ボラは、やがて氷河国王の耳にも届くことになりました。 富と権力のある国の王は、童話の世界の王様なんかとは違って、純朴ではありません。 ですから、氷河国王が彼等をお城に呼んだのは、彼らの作る不思議な洋服を見たいと思ったからではなく、その馬鹿な詐欺師をからかって暇つぶしをしようと考えてのことでした。 ついでに、彼等の尻尾を掴んで詐欺罪で投獄でもできたなら一石二鳥ですしね。 氷河国王は、見るからにワルそうな顔をしている二人をお城に呼びつけると、彼等に命じました。 「おまえたちのいう、その不思議な洋服を作ってみろ」 「かしこまりました。それでは、まず上等な絹糸と、布に織りこむ宝石をご用意ください。もちろん、手間賃は前払いでよろしく」 「ふん」 これも面白い見世物の見物料と割り切って、氷河国王は、二人にたくさんのお金を与え、すぐに仕事にとりかかるように言いました。 アフロディーテとデスマスクは、氷河国王に与えられた絹糸や宝石をとっとと現金に換え、その日は飲めや歌えの大騒ぎ。 そして、その翌日から、彼等は、糸も何もない機織り機の前に座って、大真面目な顔で機を織る真似を始めたのでした。 二人が、糸もかかっていない機織り機に向かって、こっとんぱったんぱったんこっとんしている図は、パントマイムにしても相当間抜け。 それをいい歳をした大の男が二人がかりで取り組んでいるのですから、これは大間抜けもいいところです。 けれど、そんな馬鹿げたことを笑いもせずにやってのける二人は、なかなか大した人物です。 その間抜けさ加減に免じて、氷河国王は、最後には二人を許してやってもいいかもしれないとさえ考え始めていました。 二人の機織り作業は、まあ、それくらい大間抜けだったのです。 |