さて、アフロディーテとデスマスクが間抜けな機織り仕事を開始して数日経った頃。

間抜けな姿を見ているだけなのにも飽きた氷河国王は、日頃から何かと疎ましく思っていた大臣に、その仕事の途中経過を報告させて、からかってやろうと考えました。
「おい、一輝。貴様、例の機織り仕事の様子を見てきて、経過を報告しろ。貴様は正直で利口で勇敢で、正義漢の熱血漢ということになってるらしいから、まさか、見えないということはあるまい」

一輝大臣は、氷河が国王で、自分がその臣下という設定に、非常にムカついていました。
ですが、それがこの話の設定だというのなら仕方がありません。
彼は、しぶしぶ、間抜けな二人組のいる機織り部屋に向かったのです。


「邪悪な者には見えない布だと? 馬鹿げてる。なんで、この俺がそんなものを……」
ぶつぶつ文句を垂れながら、一輝は悪党たちに与えられた仕事部屋に入っていきました。
当然、一輝の目に、不思議な布は見えません。

なのに、二人の悪党は白々しくも言ってのけるのです。
「出来はどうだ? ここのところは、苦労して織ったんだぞ」
「んっふ。この私に勝るとも劣らないくらい美しい布でしょう?」

こんな茶番に付き合わざるを得なくなったのも、元はといえば、この二人の間抜けのせいです。
一輝は、いっそこの二人を叩き切ってやろうかと考えたのですが、彼はすぐに思いなおしました。

二人に、この茶番劇を続けさせておけば、不思議な服の完成後に、氷河国王がお披露目の行列を仕立て上げることは確実です。
何と言っても、イベントには、華やかなフィナーレ(『落ち』とも言う)がなければなりませんからね。
その時、見物人の中に星矢でも紛れ込ませて、『王様は裸だ!』と言わせてやれば、氷河国王は大恥をかくことになるでしょう。
こんな楽しいことはありません。

そうと決まったら、一輝もこの物語の登場人物の一人です。
「実に素晴らしい布だ。きっと陛下も気に入るだろう」

そう言って二人を褒めてから、そそくさと機織り部屋をでると、一輝は氷河国王の元に戻り、その旨を彼に報告しました。

氷河国王は、一輝がこの茶番に乗ってきたので、自分も真面目に国王の役を演じることにしたのです。
氷河国王は早速、お供の者をぞろぞろ引き連れて、間抜けたちの仕事部屋に行きました。

もちろん、氷河国王には何も見えません。
当然です。
機の上には、本当に何もないんですから。

そんなことには委細構わず、氷河国王は、お供の者たちの顔をじろりと睨みつけました。
国王の意を汲み取ったお供の者たちは、口を揃えて言いました。
「なんて美しい布だ」
「実に豪華な布です。陛下にぴったりですね」
――等々。

誰もが、この茶番を茶番と知っていましたが、これがオトナの社会、しいては政治(?)というものです。

もちろん、氷河国王も、さも満足そうな顔をして、
「ふふん、確かに見事だな。大いに気に入った」
と頷いてみせました。
白々しいですね。


ともあれ、そういうわけで、それから更に数日後、ついに氷河国王の新しい洋服ができあがったのです。





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