突然話は変わります。

この話の設定に不満たらたらな一輝大臣には、それはそれは可愛らしい弟君がひとりいました。
北の国でいちばん可愛くて、お心清らかと評判の弟君で、名を瞬といいました。

瞬は、一輝大臣の掌中の珠で、一輝大臣は滅多に瞬をお城にあげようとはしませんでしたが、実は、氷河国王は、以前一度見た時から、瞬の純白の花のような風情にすっかり惚れ込んでいたのです。
スレた人間は、その代償を求めるかのごとく、清らかなものに心惹かれるようにできているようでした。

氷河国王は、ぜひもう一度瞬に会いたいと思っていました。
そして、あわよくば……という、大変ヨコシマな欲望も抱いていました。

で、彼は一輝に言ったのです。
「世の中には邪悪な者が多いだろう。この服は、まず、我が国で最も清らかな心を持つと評判の貴様の弟に見せて、その結果を確認してから、国民に披露すべきだと思うのだが」

「瞬をリトマス試験紙代わりにするつもりか」
無理な理由をこじつけて、瞬をお城に連れてこさせようとする氷河国王の魂胆は見え見えです。
一輝は当然、氷河国王の提案を却下しました。

けれど。
「陛下、それはナイスアイデアですねー」
「我々も、瞬ちゃんを見たいです〜」
「大臣の弟君を見ると、モーソーの素になりま――いや、心が洗われますからね〜」
と、氷河国王の意見に、一輝大臣以外の者たちは諸手をあげて大賛成。

「む……」
我儘な独裁者に多数決の原理が味方をしているのですから、これには一輝もなかなか抗しきれません。
結局、一輝は、瞬をお城に連れてこざるをえなくなってしまったのです。


でも、何事も、ものは考えよう。
あの空気の服を着て、ぱんついっちょの氷河国王を見たら、瞬はその破廉恥ぶりを嫌悪して、二度とお城にあがろうとしなくなるでしょう。

たった1度――たった1度だけ我慢すればいいことなのだと考えて、一輝は氷河国王の命令に従うことにしたのです。


そして、それが大きな計算違いだったのでした。





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