そういうわけで、久し振りにお城にあがってきた瞬は、ひとり氷河国王の私室に通されることになりました。 二人きりで試したいと言う氷河国王に、一輝は猛反対したのですが、肝心の瞬が、 「きっと、これは王様の思いやりなんですよ、兄さん。王様は、僕にその服が見えなかった時のことを考えてくださっているんだと思います」 ――だなんて、世間知らずなことを言って、兄の同伴を遮ったのです。 一輝は、仕方なく、 「俺はドアの前にいるからな。何かあったらすぐに、大声で俺を呼ぶんだぞ」 と何度も何度も瞬に言い含めてから、瞬を氷河国王の部屋の前まで連れていきました。 心配性の兄に苦笑しながら、瞬が国王の私室に入っていくと、そこに氷河国王が立っていました。 彼は言いました。 「邪悪な者には見えないというこの服、もちろん、おまえには見えるだろうな?」 「あ……」 瞬は、氷河国王の姿を見るなり、その場に棒立ちになってしまいました。 そして、次の瞬間、瞬の頬は真っ赤に染まってしまっていました。 氷河国王は、なにしろ、愛しの瞬に会えるというので滅茶苦茶張り切って、新調の服の下に、ぱんつ一枚穿いていなかったのです。 もちろん、わざとですよ。 「あああああの……あのあのあのあの……」 もともと、見えないものを見える振りをするなんて政治的配慮ができる瞬ではありません。 それができないからこそ、瞬は、“お心清らか”なのです。 まして――まして、そんなモノを見せられてしまっては。 瞬は、すぐさま、両手で顔ごと目を覆ってしまいました。 そして、実は、それは、氷河国王の思惑通りの展開でした。 「おまえ、まさか、この服が見えないのか」 「あ……あのっ……み……見え……見えてま……あ、いえ、その服じゃなくて、あの……つまり、あ……そんな……」 あまりのことに、瞬はどもりまくり、まともな言葉も出てきません。 氷河国王は、ここを先途と瞬に詰め寄ります。 「まさか、わが国でいちばん清らかな心の持ち主と言われているおまえに、この服が見えないということはないだろうな? おまえの兄も、この城の他の者たちも、この服が見えると言っている。もし、おまえにこの服が見えていないのだとしたら、おまえの中には、巨大な邪悪が潜んでいるということになるんだぞ」 「あ……」 瞬には何も弁解することができませんでした。 それどころではなかったのです。 見たくもないものを見せられて、でも、なぜか顔を覆っている指の間に隙間を作ってしまう自分に、瞬は大混乱していました。 瞬の戸惑いなど、もちろん氷河国王は綺麗に無視しました。 そして、彼は言いました。 「そんな危険な人間を野放しにしておくことはできない。今日から、おまえをこの城内に幽閉する」 そんな理不尽なことを言われても、瞬は、何も弁明することはできませんでした。 「あ……あ……」 それくらい、瞬には、その光景がショッキングだったのです。 おそらく、氷河国王の持ち物は、随分とご立派なものだったに違いありません。 ともあれ、そういうわけで、瞬は、氷河国王の策略にまんまとはまり、北の国のお城の一室に軟禁されることになってしまったのでした。 |