その非常手段のために、一輝は、瞬の前で、わざとらしく空気を持ち上げてみせました。

「兄さん?」

不思議そうな顔をする瞬に、一輝が真顔で説明します。
「これは、あの機織り屋たちが織った布でできた服だ。今夜、この服を着て、あのスケベ国王に会ってみろ」

「え?」

「今着ている服を脱いで――ああ、もちろん、上だけだぞ。それで、あの国王が何と言い出すか確かめてみるんだ」
「兄さん……?」

瞬の戸惑いなど、この期に及んで考慮している暇はありません。
一輝は、非常に馬鹿馬鹿しいと思いながらも、瞬に空気の服を着せる真似をしました。

結果として、上半身だけ裸の瞬がそこに出現します。
瞬の白い胸はそれだけでも目に毒のような気がしましたし、弟のこんな姿を氷河国王の目にさらすのは、一輝としても大変不本意でした。
けれど、瞬の目を覚ますためとあれば、これも致し方ないことです。


「いいか、瞬。今夜、この格好であのスケベ国王に会ってみろ。奴は必ずボロを出す」
「お……王様を試すようなこと、できません……!」
「最初におまえを試したのは、奴の方だろう」
「そ……それは……そうですけど……」

反駁の言葉を見つけられず口ごもってしまった瞬に、一輝は、国王の化けの皮がはがれたら、その時には窓を開けて合図するようにと告げて、来た時同様、素早く部屋を出たのでした。





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