「なんだとっ !? 」

実に馬鹿げた顛末ではあったが、それは氷河にとって寝耳に水、まさに衝撃の事実だった。
俺が瞬にそんなことをするはずがない――という氷河の反駁を、紫龍は許さなかった。

「おまえなぁ……。惚れた相手に、酔いの勢いで乱暴されちまった瞬の気持ちを考えろよ」

「…………」
そんなことを言われても、氷河の中には、そんな記憶はかけらも存在していなかった。

「しかも、その馬鹿たれは、ヤることをヤッたら、瞬の横で眠りこけて、あまつさえ、翌日には自分が何をしたのかを、すっかり忘れ果てていたんだぞ」

「……俺が……瞬を?」
氷河の反応は、きっちりワンテンポずれていた。

紫龍が、情けなさを極めている金髪の仲間に、嘆かわしさで構築された補足説明を与える。
「いいか。瞬は、痛む身体を抑えて、貴様の服を直し、あまつさえ、酔っ払って重くなったおまえを城戸邸まで運ぼうとさえしたんだからな。まあ……さすがにそれは無理で、俺が呼ばれたわけだが」
「…………」

瞬が、自分が暴行犯にされたことを、紫龍に告げたとは思えない。
紫龍は、おそらく、瞬の態度や、外に見える外傷から、瞬の身に何があったのかを察したのだろう。
その後の瞬と氷河を見るに見兼ねて、紫龍は一連のことを企んだ――らしかった。

「俺が瞬に……?」
「救い難い馬鹿だな」

紫龍の言葉が事実なのなら、確かに氷河には彼に反論する権利も資格も有してはいなかった。
しかし、氷河は、本当に何も憶えていなかったのである。


夜の桜。
瞬に散り掛かる桜の花びら。

氷河は花に酔い、酒に酔い、そして、翌朝を迎えた。


――最高に良い気分で。






【next】