コーンウォールとアイルランドの戦には、そもそも大した原因はありませんでした。
しいて言うなら、それは、『性格の不一致』と言って差し支えないような種類のものでした。

アイルランドは建国以来の長い伝統と高い文化を誇り、平和を愛する国。
翻って、コーンウォールは、アイルランドに較べれば新興の国で、最強の軍備と騎士の数を誇っていました。
そして、コーンウォールの民の誰も決して公言はしませんでしたが、彼等は、古い歴史のあるアイルランドにほんの少しだけコンプレックスを抱いていたのです。

軍備を誇る国は、戦をしなければ、その矜持を保てません。
アイルランドは、その高い文化の故に、戦に負けても国が滅ぶことはありません。
国というものは、その文化を守る民人の集団なのですから。

コーンウォールがアイルランドに突っかかっていくのには、そういう事情があったのです。
コーンウォールにとって、戦ではいつも程よく負けてくれるアイルランドは実に都合のいい国でした。
そして、そんなアイルランドが、コーンウォールには必要な国でしたので、コーンウォール側は、決してアイルランドを滅ぼそうとはしなかったのです。

氷河が、お気楽気分で船出したのも、まあ、当然のことではありました。
氷河は――コーンウォールの騎士たちは――、決してアイルランドを憎んでなどいなかったのです。



実際、コーンウォールの王が和平を求めていると聞いたアイルランドの王は、大喜びで氷河を迎えてくれました。

そして、アイルランドのアルビオレ国王の横には、あの時の騎士がいました。
甲冑を脱いで、平服を身に着けている不思議な色の髪の騎士は、戦場で見た時よりもずっと可憐で清楚な様子をしていました。

不思議な色の髪をした騎士は、どうやらアイルランドの王家の一員だったらしいのです。
その姫君なら、コーンウォールの王の妃として申し分ありません。

氷河は、これで全てがうまくいくものと上機嫌でした。

不思議な色の髪の騎士の名は、瞬といいました。





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