そのフォローが効いたのかどうかはわかりませんでしたが、アイルランドの王は、翌日には、平和を好む王らしく、氷河に良い返事をくれました。

事態の予定通りの進展に、氷河は大満足。
これで、コーンウォールとアイルランドの間には障壁がなくなって、あの騎士とも親しくなれるに違いないと、氷河は期待したのです。

戦場で剣を交える緊張感も好きでしたが、たとえば、瞬と親しい友人になれたなら、そんな、いつ訪れるかわからない機会を待つ必要もなくなり、好きな時に好きな場所で、馬上試合でも取っ組み合いでもできるようになることでしょう。
その後には、笑いながら酒を酌み交わすことだってできるようになるかもしれません。

(だが、瞬は、酒はあまり強くなさそうだな。そっちは俺が仕込んでやろう)
氷河は、自分の中で勝手に瞬を親友にしてしまい、そんな計画を立てたりしていました。


とりあえず、ひと仕事終えた氷河は、ですから、早速、瞬との面会を求めたのです。
ですが、その希望は、瞬の体調が優れないということで断られてしまいました。

そういえば、花嫁をコーンウォールの王に与えると告げたアイルランドの王の横で、瞬はひどく青ざめた頬をしていました。
おそらく、瞬は、体調が悪いのではなく、つい昨日まで敵だった国に嫁ぐ姉妹の行く末が心配で、その使者に会う気になれないでいるに違いありません。

氷河としては、瞬のそんな杞憂を苦笑するしかありませんでした。

瞬の姉妹なら美形なのに決まっていますし、敵にも優しく接してくれる瞬の近親なら、花嫁は、その心根も美しいことでしょう。
カミュ国王も、粗野ではあっても気の優しいコーンウォールの騎士たちも、美しく優しい王妃を粗略に扱うはずがありません。

瞬の心配は、天が落ちてくることを不安がるようなものでした。
少なくとも氷河にとっては、そうでした。

いずれにしても、コーンウォールとアイルランドは、海に隔てられているとはいえ、船で一日あれば行き来できるご近所さんです。
瞬に面会を断られても、これからいくらでも親しくなる機会はあるだろうと、氷河はお気楽に考えました。

一度、花嫁を連れて国に帰り、カミュ国王に花嫁を渡したら、すぐにアイルランドにとって返して、瞬との親交を計ろうと、氷河はそんなふうに思っていたのです。





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