氷河は、瞬に何も言えないまま、すごすごと自分の船室に戻りました。

そして、簡易ベッドに倒れ込み、先に立たない後悔というものに、どっぷりと身を浸しました。
それ以外に、氷河にできることはなかったのです。
ないはずでした。

けれどなぜか――これまでのアイルランドの苦渋を思おうとする傍らから、氷河の頭の中には別の思考が――ビジョンが――浮かんでは消え、消えては浮かんでくるのです。


それは、コーンウォールの城の一室で、カミュに組み敷かれ、喘ぎ歓喜する瞬の姿でした。
カミュの下で、瞬は、嘆きの涙を流すどころか、熱烈に恋する相手の激しい愛戯を、その細い肢体で受けとめようとして、必死に身体を開いています。

氷河は別に高雅な趣味を解するようになったつもりはなかったのですが、どう考えても、そんな光景を思い浮かべて、焼けるような痛みを覚える氷河の心の中には、嫉妬という感情が息づいているようでした。

瞬が、薬に頼って幸せを得ようとするような考え方をする者なのなら、最初から理解し合える友人になどなれなかっただろうと、氷河は、自身に言い聞かせました。
けれど、瞬をそこまで追い詰めたのは自分たちの浅はかな行動だったのだと思うと、瞬を軽蔑することも諦めることもできません。



散々、焼けつくような嫉妬に苦しめられた後で、氷河が決意したこと。
それは、昨日までの彼なら、決して考えなかったことでした。

氷河は、瞬がカミュと共に飲もうとしている媚薬を盗み出すことを考えたのです。
そして、その薬を、自分が先に瞬に飲ませてしまおうと考えたのです。

そうする以外に、瞬の心を手にいれる方法はないのだと、氷河は思い詰めたのでした。





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