「瞬……瞬!」 氷河の声が、妙に低い。 まるで、大人の男の人のような声だと、瞬は思った。 「瞬。いったい、どうしたんだ」 瞬が目覚めると、そこは、幼い日に暮らしていた城戸邸の中ではなかった。 周囲は瓦礫の山。 頭上には、明け方が近いことを知らせる、微かな星の瞬きがあった。 それで、瞬は、思い出したのである。 あの出来事はもう何年も前の幼い日のことで、今の自分は聖闘士であり、今は闘いのさなかであることを。 数日前から聖域に現れた正体の知れない敵。 その敵たちとの戦闘の最中に夜を迎え、瞬は、昨夜は氷河と野宿をする羽目になってしまったのだった。 瞬の顔を覗き込んでる氷河は、聖衣を身にまとっている。 昨日、深夜まで続いた戦闘のせいで、氷河の白い聖衣には血と泥がこびりついていた。 「氷河……」 「泣いてるぞ、おまえ」 「あ……うん」 瞬は、自分の頬を手の甲で拭い、その場に――戦場に――上体を起こした。 あの後、城戸邸の子供たちは、総出で街に出て、金髪の仲間の行方を捜した。 そして、星矢と瞬は、小さな花屋の前で、白いバラを睨むようにして突っ立ってる氷河を見付けたのだった。 星矢が事情を問い質すと、氷河は、少しは話せるようになっていた日本語で、たどたどしく説明をしてくれた。 自分が何か変なことをして、瞬を怒らせてしまったのだと思ったこと。 綺麗な花を贈って瞬に謝ろうとしたのだが、花を買うには金が必要だったこと。 そして、その金を、もちろん氷河は持っておらず、それでもどうにも諦めきれなくて、ずっと花屋の前に立っていたこと。 切れ切れの日本語で、それを聞かされて、瞬は氷河の前でまた泣き出してしまったのだった。 ――もう、何年も前の出来事である。 あれから氷河と瞬の間には――城戸邸に集められた子供たちの身の上には――色々な事が起き、そして二人は大人に――あの頃に比べれば――なった。 |