瞬は、その辛そうな微笑の訳を、氷河に尋ねることができなかった。

「戦争が嫌いなら、どうして軍隊に入りたかったなんてこと言うの」

瞬に問われた紫龍が、『これだから、今の若い者は』という前置きを省いて、瞬の疑念への答えを返してくる。

「帝国軍人の母親なら、たとえ外国人でも、世間に白眼視されることはなかったろうからな。例の来栖大尉の父親は、息子の告別式の挨拶で、『これまで妻が敵国人だというので肩身の狭い思いをしてきたが、息子の戦死で肩身が広くなった。見事に散華してくれたものだと、息子を褒めてやりたい』と言ったそうだ。政府要人ですら、そうだったんだ。まして、日本に確固たる社会的地位のない異邦人の息子はな……。日本に住み続けようとしたら、母親を守ろうと思ったら、そうするしかなかったんだろう」

「…………」
最愛の息子を失ったというのに、そんなことを言ってしまう父、言わざるを得なかった父の真実の思いが奈辺にあったのか、瞬にはわからなかった――わかりすぎて、わかりたくなかった。

「出兵していった兵士なんて、ほとんどがそんなもんだろう。口では、国のための何のと言っても、彼等が戦場に赴いたのは、結局は国に残される家族のためだったろう」

「……氷河は、そうまでして守りたかったお母さんをなくしちゃったの……」
「そうだな」
「どうして泣かないんだろう。取り乱しもしないで」
「男が泣くのは女々しいという教育を受けたんだろう、日本で」
「…………」

戦いの真実の姿を知らないで、戦いを否定する人間の住む世界は、なるほど氷河の目には“平和”な世界に映るのだろう。
瞬は、きつく唇を噛みしめた。





【next】