誰がリークしたのか、氷河の存在がマスコミに知れたのは、その数日後のことだった。 ちょうど話題に事欠いていたマスコミは、屍肉に群がるハイエナのように、氷の海の底から60年ぶりに蘇った異国の青年につきまとい始めた。 連日、瞬のマンションに押しかけてくるマスコミから逃れるために、氷河は紫龍の指示で瞬の家を出た。 だが、その隠れ家も、すぐにマスコミに発見されてしまったらしい。 そうして。 やがて、氷河は、開き直ったように、テレビカメラの前に姿をさらすようになった。 それが彼の意思で為されたことだったなら、彼がマスコミの前に登場したのは、彼にとって良いことだったに違いない。 外見の良さも手伝って、彼は一躍、時代の寵児になった。 60年前の道徳が基本にある彼の言動は、頭の堅い毒舌評論家に諸手をあげて受け入れられ、時代錯誤とも言える現代人批判は、なぜか若い世代にも受けて、それはやがて一種のブームになっていった。 老人たちが得意顔で戦時中の苦労を語り、それが自虐の極みと気付いているのかいないのか、自らの言動を楽しげに批判する若者たちが、日本中にあふれ始める。 そして、そうこうしている間に、いつのまにか、氷河の権利の回復が、日本国民の総意になってしまっていたのである。 |