小人たちの相談は、2、3分で終わった――らしかった。
彼等の中でもいちばん利発そうな顔をした小人が1人、瞬の前に進み出てくる。

「あのね、親切なおね……違った、おにーさん。僕たち、このケーキのお礼に、3つのお願いを言う権利を、おにーさんにあげることにしました」

「え?」
「僕たちは、不思議の国の小人たちなの。僕たちに親切にしてくれた人に、3つだけなら、どんな願い事でも叶えてあげられる力を持ってるの。その権利を、おね……じゃない、おにーさんにあげることにしたんだ」

「どんな願いでも?」
そんな不思議な力を持っているのなら、なにも星矢のおやつを盗まなくても、初めから魔法でケーキでもビスケットでも出せば済むことである。
瞬は、最初、それを、小人たちの冗談だと思った。

「信じてないの? だったら、試しに何か願ってみてよ」
「うんうん。僕たち、ほんとに、おね……おにーさんの願いを叶えてあげられるもんね! ちっちゃいと思って、ばかにしないでねっ」

小人たちは、むきになった顔も、とても可愛らしい。
瞬は、彼等の様子に苦笑しながら言ってみたのである。

「じゃあね、このケーキを2つにしてみせて」

瞬の願い事を聞いた小人たちが、激しくどよめく。
そして、
「おおおおおーっ! おね……おにーさん、あったまいい!」
――と、小人たちが言い終わった時には、ケーキは2つになっていた。

今度は、瞬が、驚いて目をむく番だった。

1つしかないケーキを2つに増やす――。
これが、メルヘンな国の魔法の物語だったなら、それは大したことではないのかもしれない。
しかし、メルヘンの国でも魔法の国でもない世界では、これは実に大したことなのである。
なにしろ、小人たちは、物理というものを超越して、無から有を生み出したのだ。

「ほーらね。嘘じゃないでしょ」
驚いて目をみはっている瞬の前で、小人たちが揃って得意げな顔になる。

瞬は、目の前で起こった奇跡に、ただただ驚愕するばかりだった。

「じゃあ、このケーキ、1個は返します。おね……おにーさんの願い事は、あと2つだよ。僕たち、悪くなっちゃう前に、このケーキを食べなきゃならないから、もう行くけど、『可愛い小人さん、可愛い小人さん』って言ってから、願い事を言うと、それが叶うからね」

「わーい! 僕たちのケーキだ、ケーキだー!」× 15


――と、そんなわけで。
瞬があっけにとられている間に、小人たちは、みんなでケーキの皿を担ぎ上げ、花壇の紫陽花の花の向こうに姿を消してしまったのである。





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