「瞬、どうしたんだ?」
瞬がやってくる前からラウンジのソファで雑誌のページを繰っていた氷河が、突然テレビの前でがっくりと項垂れてしまった瞬を訝って、尋ねてくる。

瞬は、泣きたい気分で、氷河の顔を見あげた。
そして、尋ねた。
「氷河……今、幸せ?」

「何だ、急に。俺が不幸なわけないだろう」
「でも、何もかも満ち足りてるわけじゃないでしょ」
「足りないことも幸せだと思えばいいじゃないか。何もかも満ち足りて、求めるものがなくなったら、それこそ人は何のために生きているのか──」

人間の幸せとは――少なくとも主観的な幸せがそういうものだということは、瞬にもわかっていた。
他人から見たら悲惨と思える環境の中にあっても、確かに人は、考え方ひとつで幸福になることができるだろう。
だが、それは、やはり、瞬の思い描いていた幸福な世界とは違っていたのだ。

現状の全てを認め受け入れること――それは、まかり間違えば、“諦め”と同義なものになってしまうではないか。

「氷河は、ほんとに幸せなのっ!」
「瞬……?」

半べそをかいて、まるで責めるように叫ぶ瞬を怪訝に思いつつ、氷河が仲間に手を差し延べる。
床にへたりこんでいる瞬を助け起こしながら、氷河は瞬に答えた。
「さっきまでは確かに、俺は幸せだったと思うが……。だが、おまえに泣かれると――」

――幸せでいられるはずがない。
瞬が悲しんでいる様を見せられた氷河が、幸せでいられるわけがなかった。





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