「いったい、どうしたというんだ」 氷河は、助け起こした瞬を、それまで自分が掛けていたソファに座らせると、瞬に、その半べその訳を尋ねた。 瞬が、しょんぼりしながら、先程庭で出会った小人たちの話をする。 そんなメルヘンチックな話を、もし口にしたのが瞬でなかったら、氷河は、それをただの白昼夢と一笑に付していただろう。 実際氷河はそうしようと思ったのだが、瞬になら、そんなことも起こり得るのかもしれないと、彼はすぐに思い直した。 現実に氷河は、たった今、訳もなく幸せな気分になっていたのだ。 もうずっと長いこと、彼はそんな気分にはなりえない状況に置かれていたはずなのに。 「……道理でどこかおかしいと思ったんだ」 氷河が、小さく嘆息する。 瞬が欲しくて、それが叶えられず、悶々としていたはずなのに、突然満ち足りたような気分になった訳は、確かに、そんなふうな超現実的な事情でもない限り説明がつかなかった。 「こんなの、僕の望んでいた幸せなんかじゃない。こんなんじゃ、争い事はなくならない。僕……元に戻してって、最後のお願いをすべきなのかな……」 「その必要はないだろう」 「でも……」 人々が、どんな悲惨な出来事に出合っても、その世界を受け入れ満足するようなことになってしまったら、それらのものは永遠になくなることはないだろう。 自分を幸福だと思ってしまった人々は、今ある世界をより良い世界に変えようとする意欲を失ってしまうに違いない。 瞬は、何よりもそれを危惧したのである。 だが、氷河が、瞬のそんな懸念を、あっさりと打ち消してくれた。 「おまえがそんなことを願わなくても、世界はすぐに元に戻るさ。おまえは、世界中の人間の幸せを願っただけで、その幸せが永遠に続くように願ったわけじゃないんだから。実際、俺はもう完全に幸せではなくなった。他の奴等も、そのうち、一瞬の幸せな夢から覚めることになるだろう」 「そ……そっか……」 氷河のその言葉を聞いて、瞬は、ほっと安堵の胸を撫でおろした。 確かに、瞬は、永遠の幸福を願いはしなかった。 瞬の願いは、片手落ちな願いではあったが、それはこの際、幸運なミスだった――のだ。 |