おそらく王は、民の命を幾つも奪った大獅子が倒されたことは嬉しかったのでしょうが、獅子を倒した者が、一国の王でも王子でも、あるいは神々の一人でもなかったことが、気に入らなかったのでしょう。 掌中の珠である一人娘を、名もない異国の男に与えるのが惜しくなったのかもしれません。 オイノピオン王は、しきりに、メロペ姫の代わりに財宝を与えようという話をヒョウガに持ちかけてきました。 ヒョウガがあくまで自身の権利を主張していると、王は最後には、キオスの島の半分をヒョウガに分け与えようとまで申し出てきたのです。 けれど、ヒョウガの欲しいものはただ一つだけでした。 いつまで待っても、姫をヒョウガに与えるどころか、引き会わせることすらしないオイノピオン王に、ヒョウガは焦れ、苛立ちました。 王を卑怯者呼ばわりし、いざとなったら姫をさらっていくとまで、ヒョウガは宣言してしまったのです。 ヒョウガの言葉を聞いたオイノピオン王は、顔色を変えました。 獰猛な大獅子を一撃で仕留めるほどの力を持った男は、欲しいものを与えられずに、獅子よりも獰猛になっているかもしれないと、王は恐怖を覚えたのでしょう。 王は、そして、ついに折れました。 「では、今宵の宴に、姫を侍らせることにしよう。そして、皆の前で姫をそなたに下賜する」 待ちに待った言葉を聞かされたヒョウガは、それまでの不快を瞬時に忘れ、有頂天になりました。 けれど、それはオイノピオン王の策略だったのです。 その夜の宴で、ヒョウガの杯に注がれた酒には眠り薬が入っていました。 薬の入った酒を飲み正体もなく眠り込んでしまったヒョウガの両目をえぐり出した王は、島の恩人を、傷付いた姿のまま、浜に放り出してしまったのでした。 |