「あの……ヒョウガ……?」 ふいにヒョウガの名を呼んだのは、優しい響きの、どこか少女めいてはいましたが、少年の声でした。 打ち捨てられた浜で岩のように動けずにいたヒョウガに、彼は控えめな口調で話しかけてきたのです。 「事情は――知っています。あの……差し出がましいとは思うんですが、僕、見えなくなった目を治す方法を知っています――聞いたことがあります」 「誰だ?」 ヒョウガが差し延べた手の先に、小柄な少年の細い肩が触れました。 その肩をやわらかい髪が覆っています。 優しい面立ちは、おぼろげにではありましたが、ヒョウガの指先にも読み取ることができました。 「この島の者で――シュンといいます」 「シュン……? この目を治す方法を知っているだと?」 「はい。世界の東の果てに、太陽神ヘリオスの館があるそうです。そこに行って、ヘリオスに光を分けてもらえば、どんな目の病も怪我も元に戻るんだそうです」 シュンの話を聞いて、ヒョウガは、これまでにも増して絶望的な気分になりました。 シュンが教えてくれたその方法は、盲いた今のヒョウガには叶わぬ夢以外の何物でもありません。 「世界の東の果てまで、この目の見えない俺がどうやって行くというんだ」 暗に、君が教えてくれた希望は別の絶望を誘うだけのものだと告げたヒョウガに、シュンは言下に言いました。 「僕がヒョウガの目になります。僕がヒョウガをヘリオスの館まで連れて行きます」 「なに?」 その少年が、今日初めて会ったばかりの異邦人に、なぜそんな親切を示そうとするのか、その訳がヒョウガにはわかりませんでした。 それは長い旅になることでしょう。 待ち受ける危険も多いに違いありません。 なにしろ、人間の足で、神の住む領域に踏み込もうというのですから。 ヒョウガの懸念を読み取ったらしく、シュンは、おずおずと伸ばした指でヒョウガの腕に触れ、そして言いました。 「僕、みなしごなんです。心配してくれる家族もいませんし、ヒョウガが、このことでこの島の人間に悪い印象を持ったりしたら悲しいですから」 「…………」 シュンの言葉に、ヒョウガは一瞬息を飲みました。 つい先程までヒョウガは、この島の人々に対して、悪い印象どころか、皆死んでしまえばいいとさえ思っていたのです。 シュンの優しい言葉に、ヒョウガの心は和らぎました。 そして、少なくとも、自分が憎むのは、こんな卑劣なことをしたオイノピオン王だけにしようと思ったのです。 「どうせ、僕、この島にいても、誰の役にも立たない子供ですから。それなら、せめて、ヒョウガの役に立ちたい」 「しかし――」 「お願いです……!」 シュンに強くせがまれて、ヒョウガは結局、シュンの厚意を受け入れることにしました。 故郷の国と遠く隔たったこの島に、ヒョウガには他に頼れる者もいなかったのです。 |