長い沈黙の後、シュンはヒョウガにぽつりと尋ねてきました。

「そんなにメロペ姫が好きなの?」
――と。

ヒョウガが、間髪をいれずに頷きます。
「そのために、大獅子と闘った。きっと、俺は、姫に会うために、キオスの島に行ったんだ」

ヒョウガは、今でも、そう信じていました。
自分は、あの島に、自分の運命に出会うために、運命の力で運ばれたのだと。

そのヒョウガに、シュンは思いがけないことを言い出したのです。
「メロペ姫は、父王のなさりようをご存じだったとは思いませんか?」
「まさか」
「でも、ヒョウガが獅子を退治したことは、島のみんなが知っていました。姫だって、ご存じだったはずです。姫がご自分の夫になるはずの人に関心を抱かないはずがない。なのに、姫は、ヒョウガに会おうともせずに――」

「…………」
メロペ姫がオイノピオン王の企みを知っていた――そんなことがありえるでしょうか。
そして、父王の企みを承知の上で、それを黙過した――などということが?
これまで、ヒョウガは、そんな可能性のあることに、一度たりとも考えを及ばせたことはありませんでした。

返す言葉を失ってしまったヒョウガに、シュンはひどく慌ててしまったようでした。
「あの……ごめんなさい。そんなはずないですよね」

すぐに謝罪してきたシュンに、ヒョウガはむしろ懸念を感じていました。
細やかな気遣いと尋常でない犠牲心だけでできているようなシュンが、そんな悪意にもとれるような邪推を口にしたことに、ヒョウガは強い違和感を覚えたのです。

シュンにそんな心無い言葉を言わせてしまうものが何なのか、今ではヒョウガにもわかりかけていました。
ですから、ヒョウガは、断固としてシュンの推察を否定したのです。
「ありえない。メロペ姫は、澄んだ美しい目をしていた。もし、オイノピオン王の企みを知っていたなら、事前に俺に知らせてくれていたはずだ」

「…………」
今度は、シュンが言葉を失う番でした。

「シュン……?」
ヒョウガが、黙り込んでしまったシュンの名を呼びます。

シュンは、小さく首を左右に振ったようでした。
「ごめんなさい……。そうですね、ヒョウガはとても綺麗だし、強くて勇気もありますし、目を治して姫の許に行けば、今度こそきっとメロペ姫も――」

「必ず、俺のものにする。絶対に諦めない」

シュンの声が涙を含んでいることに気付いていながら、ヒョウガは、それでもきっぱりと告げたのでした。






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